大化の改新の歴史ロマン 槻の木の広場の発掘

明日香村大字飛鳥において、飛鳥寺西方遺跡の範囲確認調査をしていた明日香村教育委員会から、今回の発掘調査により広い範囲の石敷が確認されたので2月2日に現地で調査見学会を行うとの報道がありました。
「たかが石敷」ではあるのですが、実はこの石敷、歴史ロマンたっぷりの発掘作業だったのです。
飛鳥寺は蘇我氏の氏寺で、元は法興寺と呼ばれていました。
同じく明日香村にある豊浦寺(尼寺)と並んで日本最古の本格的寺院です。本尊は「飛鳥大仏」と通称される鞍作鳥の作とされる釈迦如来像があり、この寺の創立者は蘇我馬子です。釈迦如来像の造立にあたっては、高麗国の大興王から黄金三百両が贈られたことも、日本書紀に記録があります。飛鳥寺は、587年(用明天皇2年)に蘇我馬子により建立の発願がなされ、596年(推古天皇4年)に完成し、馬子の子供である善徳が寺司となるとともに高句麗僧の恵慈と、百済僧の恵聡の二人が住んだとも記録されています。当時、蘇我馬子は排仏派の物部守屋と壮絶な争いを繰り広げており、この法興寺も、物部守屋への戦勝祈念のために建立したとされています。
最終的には、物部氏に勝った蘇我氏は、その後天下を我が物とする勢いを見せますが、法興寺建立の約50年後の645年。歴史的なクーデターである、「乙巳の変」で惨殺されてしまいます。そして政治改革である「大化の改新」が始まるのです。
今、飛鳥寺の西門を出て西へ100m程行くと、田んぼの中に五輪塔が立っています。この五輪塔は、蘇我入鹿の首塚と呼ばれています。今回の発掘調査は、この五輪塔の丁度西側でした。飛鳥寺の南側には、乙巳の変の舞台となった皇極天皇の飛鳥板蓋宮がありました。
日本書紀によれば、乙巳の変の首謀者は、中大兄皇子と中臣鎌足となっています。日本書記は、この二人の出会いに想いを込めて、次のように記載します。
『蘇我入鹿が君臣長幼の序をわきまえず、国家をかすめようとする企てを抱いていることに憤った中臣鎌足は、王家の人々に接触して企てを成し遂げる明主を求めた。そして、心を中大兄に寄せたが、離れていて近づきがたく、自分の心底を打ち明けることができなかった。たまたま、中大兄が
法興寺の槻の木の下で、蹴鞠を催しされたときの仲間に加わって、中大兄の皮靴が、蹴られた鞠と一緒に脱げ落ちたのを拾って、両手に捧げ進み、跪(ひざまず)いて恭(うやうや)しくたてまつった。中大兄もこれに対して跪き、恭しくうけとられた。これから親しみ合われ、一緒に心中を明かし合ってかくすところがなかった。』
実に、ロマン漂う記載内容だと思われませんか。まるで、恋人同士の出会いのような三文小説ばりの説明です。私は、飛鳥寺に行った時、槻の木はどこだと探したのですが、それらしき木は、見当たりませんでした。狭い境内でしたが、「ここで蹴鞠をしたのか?」と、嘘くさいと思ったものです。
しかし、この舞台である「法興寺の槻の木の下」が今回の発掘場所なのです。名付けて、「槻の木の広場」。日本書紀には、もう一回、この槻の木の下の記述が出てきます。大化の改新を進める中で、孝徳天皇が即位します。
『十九日、天皇・皇祖母尊・皇太子は、
大槻の木の下群臣を召し集めて盟約をさせられた。天神地祇に告げて「天は覆い地は載す、その変わらないように帝道はただ一つである。それなのに末世道おとろえ君臣の秩序も失われてしまった。さいわい天はわが手をお借りになり、暴虐の物を誅滅した。今、共に心の誠をあらわしてお誓いします。今から後、君に二つの政無く、臣下は朝に二心を抱かない。もしこの盟に背いたなら、天変地異おこり鬼や人がこれをこらすでしょう。それは日月のようにはっきりしたことです」と誓った。』
この誓いの言葉を見る限り、クーデターの首謀者は孝徳天皇こと軽皇子であったのではないかと思われますが、まーそれは置いておいて、天皇との盟約の地も、やはりこの「槻の木の広場」であったのです。
調査では、石敷の広場の中に、直径2~3メートルの穴も2個見つかったとされています。残念ながら、槻(ケヤキ)の木があったわけではないようです。私は、高い棒が建てられていたのではないかと思います。しかし、この「槻の木の広場」は、神聖で特別な場所であったのではないでしょうか。だからこそ、この地で中心人物は出会い、そして、この地で盟約も行われたのだと思います。そんな場所の姿の一端が見えたのが、今回の発掘でした。
盟約をした孝徳天皇は、難波長柄豊碕宮に移りますが、最後は、皇太子である中大兄皇子が、皇極上皇、間人皇后、大海人皇子をひきいて大和に戻ってしまいます。孝徳天皇は、一人残され病気になって死んでしまうのです。
時代は盛者必衰を繰り返しながら、どんどん流れていきます。もしかすると、孝徳天皇は最後に、槻の木の広場を思い出していたかもしれません。

槻の木の広場発掘の共同ニュースの映像です。